甲状腺は、ホルモンを分泌する内分泌器官のひとつです。喉ぼとけの真下に位置し、蝶が羽を広げているかのような形をしています。大きさは3~5㎝程度、重さは15~20g程度、厚さは1㎝程度の臓器です。このサイズでも内分泌器官の中では最も大きいものです。
甲状腺は食物等に含まれるヨウ素を取り込むことで甲状腺ホルモンを合成し、血液中に分泌していきます。甲状腺ホルモンは体内の大部分の臓器(脳、心臓、胃・腸 等)を刺激し、新陳代謝を促進させるほか、子どもの成長・発育にも関わっています。このことから、甲状腺ホルモンの分泌が何らかの原因(病気等)で過剰あるいは、不足するなどすると様々な症状が現れるようになります。これらがみられる病気のことを甲状腺疾患と言います。甲状腺疾患は女性(とくに20~50代)の患者数が多いのも特徴です。
大きく3つのタイプに分類
甲状腺疾患は大きく3種類に分類されます。その3つとは、血液中の甲状腺ホルモンが過剰となってしまう甲状腺中毒症(バセドウ病、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、プランマー病 等)、血液中の甲状腺ホルモンが不足してしまう甲状腺機能低下症(橋本病 等)、甲状腺に腫瘍が発生する甲状腺腫瘍(良性甲状腺腫瘍、甲状腺癌 等)です。それぞれ特徴的な症状は以下の通りです。心当たりのある方は、一度当院をご受診ください。
- 【甲状腺中毒症でみられる主な症状】
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喉が渇く、多汗、食欲旺盛も体重減少、動悸、頻脈、下痢、手指が震える、すぐにイライラする 等
- 【甲状腺機能低下症でみられる主な症状】
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疲れやすい、顔や体にむくみがある、徐脈、食欲不振も体重増加、だるい、無気力、便秘、寒がっている、声がれ 等
- 【甲状腺腫瘤(良性腫瘍・悪性腫瘍)でみられる主な症状】
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頸部に腫れ・しこりを感じる、喉に違和感 等
甲状腺中毒症の代表的な疾患
バセドウ病
血液中の甲状腺ホルモンが過剰となってしまう状態を甲状腺中毒症と言います。その中でも甲状腺から過剰にホルモンが分泌している状態を甲状腺機能亢進症と言いい、バセドウ病でも認められます。発症の原因としては主に自己免疫異常によって甲状腺を異物とみなす抗体が作られ、甲状腺を常に刺激することによって、甲状腺ホルモンの分泌が過剰になると考えられています。
よくみられるのは、甲状腺の腫れ(首の前部が腫れる)、眼球の突出のほか、甲状腺中毒症に伴う症状(動悸、頻脈、暑がる、多汗、イライラする 等)です。
診察からバセドウ病が疑われると、血液検査(甲状腺ホルモンや抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体を調べる 等)や甲状腺超音波検査(甲状腺の大きさ、腫れの有無等を調べる)などを行い、診断をつけていきます。
治療について
検査結果などから、バセドウ病が疑われると治療が行われます。基本的には、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する効果があるとされる抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)による薬物療法になります。 なお抗甲状腺薬では改善がみられないという患者様には、放射性ヨウ素(アイソトープ)のカプセルを服用 (131I内用療法)による治療や手術療法が検討されます。手術療法の場合、甲状腺の全て、もしくは一部が摘出されます。131I内用療法や手術療法が望ましいと医師が判断し、紹介を希望される患者様には専門の高次医療機関に紹介致します。
破壊性甲状腺中毒症(亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎)
破壊性甲状腺中毒症とは、炎症などによって甲状腺が壊されて血液中に甲状腺ホルモンが漏出して甲状腺中毒症を発症する病態を言います。破壊性甲状腺中毒症は主に、首の痛みを伴う亜急性甲状腺炎と痛みを伴わない無痛性甲状腺炎があります。まれに橋本病の急性増悪でも亜急性甲状腺炎と類似した症状となる場合があります。
破壊性甲状腺中毒症ではバセドウ病と異なり、甲状腺刺激ホルモン受容体抗体は通常陰性です。甲状腺中毒症症状以外の随伴症状、血液検査、甲状腺超音波検査を踏まえて判断します。
治療について
破壊性甲状腺中毒症の治療としては、甲状腺機能亢進症と異なり抗甲状腺薬は無効で、β遮断薬(動悸を抑える薬)、抗炎症薬治療などにより2~3ヶ月以内に甲状腺中毒症は改善することが多いです。その後、一過性に甲状腺機能低下の時期を経て甲状腺ホルモンが正常化することが多いですが、そのまま永続的に甲状腺機能低下となる患者様もいらっしゃいます。
甲状腺機能低下症の代表的な疾患
橋本病
慢性甲状腺炎とも呼ばれます。別名の通り橋本病は慢性的に甲状腺に炎症が起きている状態ですが、炎症の原因は自己免疫異常によるものです。またバセドウ病と同じく女性の患者様が多いのが特徴です。
橋本病もバセドウ病と同じように甲状腺を異物とみなす抗体の検出が診断指標となります。原因は自分自身の免疫細胞が甲状腺の細胞を破壊するようになってしまう自己免疫異常です。甲状腺の細胞が破壊されることにより、甲状腺ホルモンの分泌が低下していきます。甲状腺の腫れ(表面がゴツゴツ、しこりがみられることもある 等)がみられるほか、甲状腺ホルモン分泌低下に伴う症状(体の冷え、寒がる、食べなくても体重増加、肌荒れ、顔などにむくみ、もの忘れ、意欲低下、月経異常 等)も現れます。
診察時に橋本病が疑われると診断をつけるための検査をします。血液検査では、ホルモン測定や自己抗体を調べていきます。また甲状腺の状態を確認する甲状腺超音波検査などを行います。
治療について
橋本病と診断を受けたとしても甲状腺の機能に問題がないと判断されれば、治療をすることはありません。ただ将来的に機能が低下する可能性がありますので、経過観察は必要になります。
体内で甲状腺ホルモンが不足している(甲状腺機能の低下)と診断されたのであれば、不足している甲状腺ホルモンを補うための薬物療法として、甲状腺ホルモン薬(レボチロキシンナトリウム 等)を服用していきます。
甲状腺に発生した腫瘍
甲状腺腫瘍
甲状腺にしこり(結節)が発生している場合、その一部は甲状線腫瘍と呼ばれます。さらに同腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍に分類されます。良性腫瘍には、腺腫様甲状腺腫、濾胞性腫瘍等が含まれます。良性腫瘍であってもしこり(結節)から甲状腺ホルモンが過剰に分泌され甲状腺機能亢進症の症状がみられる場合もあり、機能性結節(プランマー病 等)と言われています。
悪性腫瘍では、大きく甲状腺癌と悪性リンパ腫に分類されます。さらに甲状腺癌は、分化癌(乳頭癌、濾胞癌)、未分化癌、髄様癌に分類されます。ちなみに甲状腺癌の9割以上の患者様は、乳頭癌です。発生の原因は不明です。主な症状ですが、分化癌や髄様癌に関しては、発症に気づきにくいとされていますが、しこりを感じることはあります。未分化癌は結節が急速に大きくなって、痛みや発赤がみられます。この場合だけ、予後は極めて不良です。また悪性リンパ腫でも、甲状腺が比較的急速に腫れていきます。なお分化癌と髄様癌は30~50代の女性、未分化癌や悪性リンパ腫は60代以上の女性に発症しやすいと言われています。
腫瘍の有無を確認する検査については、甲状腺超音波検査を行います。良性の腫瘍は、形状が円形や楕円形など整っていて、境界がはっきりしています。一方悪性腫瘍の場合は、形状は整っておらず、また境界が不明瞭な充実性病変が現れるようになります。悪性腫瘍が疑われる場合には甲状腺に針を刺し、採取した細胞を顕微鏡で調べ、良性あるいは悪性かを判定する穿刺吸引細胞診や腫瘍マーカーの採血が行われます。
- 現在当院では穿刺吸引細胞診は実施しておりません。悪性腫瘍が疑われる場合や精査が望ましい場合には専門の高次医療機関に紹介します。
治療について
検査等の結果、悪性腫瘍と判定された場合、乳頭癌や濾胞癌、髄様癌であれば、外科的治療となります。この場合、甲状腺を摘出するほか、頸部リンパ節へ転移するリスクを減らすために頸部リンパ節郭清術も併せて行われます。
未分化癌については、増殖のスピードが速いために外科的切除は困難です。したがって、放射線治療(放射線外照射)や化学療法(分子標的薬)が選択されます。悪性リンパ腫については未分化癌と同様に放射線治療や化学療法を組み合わせて治療が行われますが、病状や悪性リンパ腫の種類により多様な治療が選択されております。